インド人占い詐欺師に涙が出るほど救われる話


最近、街中をフォーチュンテラー(占い師)と名乗るインド人詐欺師が徘徊している。
彼らはどこからともなくあらわれ、そして去ってゆく。
決まってターバンを頭に巻いたインド人だけど、複数人いることを確認している。
やつらは香港島側にも九龍側にも出没する。
ある日、外でタバコを吸っていた。
仕事がうまく行かなくて、こっぴどくやられて、自尊心も失って、塞ぎ込んでいた。
なにも良いことなんてなかった。軽い鬱みたいなもんにかかっていた。ずっと長いこと。
だから、その日も気を紛らわせるためにタバコを吸っていた。
そんな時、彼は目の前に現れた。
たいていタバコを吸ってる時に声をかけてくる奴はライターを探している奴だ。
手元のライターを差し出す。
「君は良い顔をしているね」
そいつは突然そういった。
インド人「君はずっと運気が悪かった。だからこの数年は辛かっただろう。
だけど、大丈夫、今年、君には3つの良いことがきっと起こるだろう」
僕「あんた誰?」
インド人「フォーチュンテラーだ。」
そしてそいつは持っている手帳から古ぼけた写真を取り出す。
白黒のいかにも歴史のありそうなその写真の中央には、白髪の痩せ細った老人が写っていた。
インド人「これが私の師匠だ。著名な占い師で、私はそこで修行した。
好きな色を思い浮かべてごらん」
僕はオレンジ、を反射的に思い浮かべようとした。いつも好きな色は?と聞かれて答える色だから。
でも、今日はブルーにしよう。そう思って気まぐれにブルーを思い浮かべた。
どうしてブルーにしたのか、わからない。
インド人「君には兄弟が3人いるね。」
僕「うん。」
インド人「兄弟は妹?弟?」
僕「弟が一人、妹が一人です」
インド人「じゃあ、君を足して3人だね」
インド人「この紙にさっき思い浮かべた色のことを考えながら息を吹きかけてごらん」
僕「ふー」
インド人「紙を開いてごらん」
そこにはブルーと書かれていた。
インド人「寄付をして。そしたらもっと君のことを占ってあげる」
そして、上の写真みたいに憐れで可哀想な被害者は財布を取り出すことになる。
僕はその後、この光景を何度も見ることになる。
写真はその中の一枚に過ぎない。
そして、かつて僕もその当事者の一人だった。
僕はお金を彼に渡した。
そしたらインド人は占ってくれるでもなく、消えるようにその場を去って行った。
この話を仲の良かった女性に話したら、大丈夫?と本気で心配された。
そして、彼女は泣き出した。
僕は心底がっかりした。
その子が僕の気持ちを理解してくれなかったから。
僕が心が病んでおかしくなってしまって、占いにすがりつくまでになってしまったと彼女は考えたみたいだ。
でもそうじゃなかった。
僕は、ただ、ただ、嬉しかっただけだった。
だから、だまされたとか、詐欺にあったとか、そういうことはどうでも良くて、
そのインド人に感謝したかった。
その感謝を伝えるためにちょっとばかりのお金を渡した。ただそれだけのことだったのに。
「今年はきっと良いことが起こるよ」
いつだろう。最後にポジティブな言葉をかけてもらったのは。
あんまりそういうことを人は人に言わないよね。
文句とか、不満とか、批判とかそういうことはたくさん言うのにね。
インド人でも、詐欺師でもなんでもかまわなかった。
前向きな言葉に、僕は心から救われた。
涙が出そうになった。
人は、言葉を貰っただけで、これだけ救われて、力を貰えて、そして、歩き出すことができるんだ。
そんなこと、僕は知らなかった。
些細だけど、きっととても大切なことを僕はそのインド人に教えてもらった。
僕も人に前向きな言葉をかけてあげよう。
そんなこと、ずっとしてこなかったし、考えたこともなかった。
僕はそのことを教えてくれたインド人にとても感謝した。
だから、少しばかりのお金を渡したんだ。
教訓とか、叱咤激励とか、そんなもの何の役にも立たないほど追いつめられることがある。
そんなとき、言葉が、優しい言葉が、たったそれだけなのに、
そんなもんじゃ何も現実は変わらないのに、
なのに信じられないほど救ってくれて、世界を変えてくれることがある。
たぶん、世の中は、びっくりするくらい優しくないんだろう。
世界が素晴らしいものになるために、大それたことなんて必要ないんだと知った。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です