シンガポール旅行 ④ 世界一の奇跡


観光するなら僕は、一つのところをじっくり見るのが好きだ。
表面だけサラリとみて、ハイ次、ハイ次、ハイ次、というのは嫌いだ。
ツアー旅行は大抵後者だけど、まだ許せる。
しっかりハイライトは見せてくれるから。
だけど、あまりにも急ぎ過ぎてそれすら見られなかったら、何のために観光するのかもわからなくなる。
そんな気持ちの一日でした。
今日はQ君の滞在最終日。
かれは仕事をバリバリしているので、有給をとれても1日。
金曜の深夜便できて、月曜日の深夜便で帰るというまさにサラリーマンな旅程なのだ。
最終日ということで、行きたいところをとことん詰め込まれることになった。
正直、いい迷惑である。
この旅の目的は、とことん流されること。
アレンジは友人に任せること。
だったけど、さすがに口出ししたくなる衝動を押さえきれなくなり、少し不機嫌になりかけた。
これぞまさにグループ旅行の醍醐味というやつである。
特にみんなそれなりの金を使う海外旅行では、価値観の違いによる衝突が頻繁に起こる。
誰しも、海外旅行で仲良かった友達と行きたいところを巡って険悪な雰囲気になったことがあるんでなかろうか?
お前が連れ回してんだからお前がタクシー代払え、なんで僕がいつも払ってんだ。
とかいうつまんないことが一つづつ積み重なっていくわけだ。
朝食はホーカーズヘ。
これ、

だったらいいなー。
実際のホーカーズはこれ、、、

政府が衛生面を考えて屋台を一か所に集約させたものらしい。
団地とかはインド人が多く、あまりのインド料理の臭さに料理が禁止されて、
変わりにホーカーズが隣接されているものもある。
今回行ったのはそんなホーカーズの一つ near Gaylang
というのが物知り無職K君の説明。

屋台飯は旨い。けど、なんだか飽きちゃうんだよねー。香港でもそうなんだけど。
こういうローカル飯が何日も続くともういいやと思ってしまう。
こんな僕は、友人たちから散々海外を楽しんでないと非難されるんだけど、
ずっと香港に住んでる僕の身になっても欲しいもんです。
ローカル飯は旨いけど飽きるんだよ!!
やっぱ、日本人は日本の定食だろ!!
それか、マクドナルドね。

じゃじゃーん!
ハウパーヴィラ。通称、タイガーバームガーデン。
ジョジョにも出てくる、インスピレーションMaxの施設。
タイガーバームの売り上げをもとに作られたらしい。
B級スポット総本山。
入場料無料。
もちろんミーハーQ君は断固拒否していた。
しかし、無職K君は僕と同じ価値観の持ち主。
正直、ミーハーもいいけど、Bも好きという柔軟性を持っている。
いつの間にか行き先決定の投票権は、
ミーハーQ君 49%、
無職K君 49%
僕 2%
になっていた。
自分の意見を主張しないと、人に流され、さらには意思決定権も奪われる。
社会の縮図がここに表れていた。
しかし、両者が対立した時の最後の決定権を僕は維持していた。
大きな、非常に大きな2%。
それを僕はここで行使し、その後ミーハーQを敵に回すことになる。
そんなリスクを冒して、訪れたのがここ。
ハウパーヴィラである。
僕のテンションは一気にMAXに達した。

虎、と園内を維持管理しているおじさんの一人。
この公園は無料にも関わらず、草むしりしたり、オブジェのペンキを塗り替えたりと管理している人たちが何人もいる。
いったいどこからこの維持管理費用は出てくるのだろうか。
未だにタイガーバームはそこまでの売り上げを上げ続けているのだろうか。
かつて、おじいさんやおばあさんは、子供が蚊に刺されても、けがをしてもタイガーバームを塗った。
タイガーバームは万病に効く薬であった。
風邪をひいたら顔中に塗りたくられたものだ。
僕も初めて香港を訪れたとき、買わされたお土産はタイガーバームだった。

入口のおじいさんが持つ杖には何やら動物の顔。

どこか、日本の古き良きB級スポットを思い出さないだろうか。
こういった施設は田舎の観光地に行けばまだ少しは残っている。
B級スポット、珍スポットに興味がある方はこちら。
日本珍スポット100景

5分もすると、ミーハーQが下らないから出ようと駄々をこね始めた。
僕の中で戦慄が走る。
無職Kも、今回のホストT夫婦も空気を読んでQの意見に賛同し始める。
なにふざけたことぬかしやがるんだ。
まだ10分の1も見てないじゃないか。

かつて、僕は全国の珍スポットだけを目指して旅をしたことがある。
例えばここ。
地獄・極楽めぐり 伊豆極楽苑
この公園に雰囲気が似ていないだろうか。
入場料は500円取られる。
ハウパーヴィラの入場料はタダ。
Qは全くこの場所の価値がわかっていない。
ここは奇跡の場所。
マリーナベイとかマーライオンとか、動物園とか、そういう下らないもんはどうだっていい。
そんなもんはどこにでもある。
しかしこの場所は、奇跡の場所なのだ。

これが何のために、どんな思想をもって、どんな意義のもとに作られたかわかるだろうか。

例えば、この地獄館が、何をしたくて、どうやって計画を立てて、予算を割いて、作ったのだろうか。

正直すべてが意味不明。
がらくた。
美術としても、商業施設としても、何の価値もない。
そんなもんが、都心からすぐ近くのところに広大な面積を有して鎮座しており、
なおかつちゃんと働いている人がいて、せっせとメンテナンスが施されている。
さらには、このハウパーヴィラに隣接した地下鉄駅まである。
この究極なまでに無駄な設備が、ここに存在しているという奇跡。
その価値。

この像がどういう意図を持って作られたのかと、想像をめぐらす無意味さ。
全てが常識を超越している。
こんな場所は無い。
どこまでも価値が無さすぎることの圧倒的な希少価値。
Qには理解できないのだろうか。

僕は意地でも、全部見ようと試みた。
どんなに友人がうんざりしようが構わない。
そして、糞クソ暑い中、全部見切ってやった。
最後にQがボソリと言った。
これはアジアのガウディや
しかし、僕らはハウパーヴィラに結果的にいすぎてしまった。
ここで失った時間を取り戻せないこと。
同時に失った僕の信用も取り戻せないことをしったのはすぐあとだった。
僕の意思決定権は0.001%になっていた。
しかし、その代償を僕は後悔しているだろうか。
No! なんならあと1時間くらいここにいたって良かった。
B級スポットの総本山。メッカ。
ここにこれたことを、僕は感謝しなければならない。
ちなみに、タイガーバームはここでは買えない。


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