旅行に出発する前、帰国の足を確保する保険として桂林から深センまで列車のチケットを購入していた。
12時間の長い道のりになる。できればこれは使わずに陽朔からバスで深センに帰ろうと考えていた。
バスを利用すれば8時間に短縮できるし、わざわざ桂林まで行く必要もない。
しかし、ここは面倒くさがりの僕。
結局、帰る当日になってもバスの手配をしていなかった。
さらに、ここは貧乏性の僕。
せっかく買ったチケットを捨てるのが惜しくもなる。たった218HKD(約3000円)程度だけど。
夜22:20桂林発。その列車に乗って帰ることに決めた。
本日が陽朔最終日。列車に間に合うように桂林に行く必要があるけど、まだ時間は十分にある。
今日もサイクリングをすることにきめた。
行き先は遇龍河遊覧。
地球の歩き方によると、
“遇龍河は小漓江とも呼ばれる全長43.5kmの漓江最大の支流。本流である漓江では大型船に乗り込む雄大な川下りを堪能できるが、この川ではふたり掛けのイスが載ったパラソル付きの竹製いかだに乗り、陽朔の豊かな自然を身近に感じながら川下りが楽しめる”
とある。
めちゃめちゃ良さそうじゃん。
陽朔から遇龍橋という乗り場まで自転車で約1時間とのこと。
この日は、本気を出してマウンテンバイクを30RMB(約500円)で借りた。
ママチャリの三倍の値段である。結果的に、このマウンテンバイクが僕の命を救ってくれることになる。
マウンテンバイクはすごい。
ママチャリの二倍のスピードで走れる上に、ギアチェンジも可。(ただし頻繁にチェーンが外れる)
サドルが細くておケツが痛くなることが唯一の難点。
すいすい他の観光客のママチャリを抜いていけるのは気持ちよかった。
ここでは観光客向けに二人乗り、三人乗りの自転車を借りることもできる。
日本の田舎の観光地にあるやつと同じようなやつだ。
山、洞窟、川、木、大自然が観光地化されて奇抜な装飾がつけられたり、アトラクションみたいになっている。
道の途中ではロッククライミングをしている人もいた。
なんだか大きなテーマパークにいるような気分になる。
自然が蹂躙されている。そんな印象だった。
桂林が世界遺産として登録されない理由の一つかもしれない。
世界遺産はその保護を第一の目的としている。
一方でここを訪れる人たちは、自然を愛でるというより、有名観光地で大いに遊ぶことに重きを置いているようだ。
僕は河口湖を思い出した。
富士山のふもとにある河口湖は観光地として有名だ。
そこには富士山とは関係ないさまざまな観光施設が林立し、旅行者を待っている。
一方でそのせいで大切な観光資源であるはずの自然や景観が損なわれている。
住民は富士山が世界遺産に登録されることにずっと反対していた。
自由に観光開発ができなくなるからだと。はたから見たら悪趣味にしか見えない看板を置くことができなくなるからだと。
桂林も似たようなものだろう。
中国でエコツーリズムが浸透するのはまだまだ先かもしれない。
すぐに、遇龍河降り場の工農橋に着いた。
たしかに筏がたくさん流れている。
それらをまとめて荷台に載せたトラックが、上流へと運んでいく様子は滑稽だ。
まだ時間も早く、余裕がありそうだったので寄り道して、月亮山まで行ってみることにした。
”陽朔の南約6kmにある月亮山。山腹に大きな丸い穴があいており、眺める場所によって形が変わって見えるため、この穴を月に見立ててこの名前がついた。山腹の穴までは登ることができ、田園地帯に奇峰がそびえる独特の景観を一望できる。徒歩で往復約1時間30分”
アメリカ人の偉い人もこの山には登ったことがあるらしい。
中国人はともすると、観光地化のために山すらくり貫きかねないから、これも人工物なんじゃ?
とふと頭をよぎるけど、さすがにそれはないよね。
入場料は15元(約250円)。
途中の道は、しばらく整備されていないようで、雑草が生い茂っていた。
もうすこし回りに手入れをしたら眺めもよくなるのに、そういうところは抜かりある。
穴はまん丸ではなく、半月だった。
奇峰の下に寄り添うようにして小さな集落がある。
このような集落がこの辺にはたくさんある。
一歩、メインの観光地から外れると、のどかな風景が残っている。
竹が生えていたので、根元を撮ってみた。
そういえば、竹の根元ってどうなってるんだっけと気になっていたのだ。
結構グロテスクである。竹はたくさん生えていても根元は一つにつながっていて、全部で一つなのだ。
頂上からの風景。
そういえば入り口におばあさんがいて、水を売っていた。
この先は水が買えないからここで買っていったほうがいいとのことだ。
特にのどの渇きもないし、そこまできつそうには見えないし、ましてやそんな重いものを運んだら余計に疲れると思ったので買わなかった。他の観光客も適当にあしらっていた。
月亮山の頂上には、もう一人おばあさんがいて、水を売っていた。
上りきってほどよく疲れ、のどの渇きを覚えた観光客たちはこぞって水を買っていた。
人のニーズをどれだけ理解しようと努め、行動するかによって結果が大きく変わることをこんな場所でも学ぶ。
下のおばあさんは30分の道のりを面倒がって、結果、時間を無駄にしている。
確かに30分の道のりを水を運んで上るのは大変だろう。
だからこそ、頂上で買う水にはそれだけの付加価値がつくんだね。
買う側はそのことを十分にわかっている。
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